財務プロフェッショナル:トレジャリーとファイナンス

銀行接続コラム

著者:大田 研一(アドバイザリー)

筆者は大学卒業後に電機メーカーに入社して財務部に配属され、それ以来50年の年月を財務関連業務に関わってきました。その間当時の所属した財務部の英文表記Treasury Divisionのトレジャリーという言葉に違和感や馴染みのない感覚を持っていました。財務を英語に訳したらFinanceではないのかという思いです。皆さんの会社でも財務部あるいは資金課あるいは資金グループ等英文表記に注目して見てください。

トレジャリーの言葉には会社の資金や現金(つまりはキャッシュ)に対する思い入れのようなものを感じます。資金に苦労すればそれだけキャッシュにこだわりが出てくるわけです。

今では資金の潤沢な商社ですが事業モデルの転換により資金に苦労した歴史があり、キャッシュに対する拘りは財務部の英文表記(Treasury Divisionに表れています。新入社員に対する教育も資金を重要視するものでした。私も、入社後4年目から輸出債権管理の仕事を担当していた時に商社経由(いわゆる間接貿易)で、の輸出債権の回収がありました。その時に、彼らが少ない口銭で利益を上げる仕組みを理解しました。それは金融リテラシーの差です。彼らの入金した月末締めの翌月払い。適用する入金為替レートのマージン等メーカーの営業がほとんど気にしない条件にこそ見えない口銭があります。

大きなプロジェクトであれば、商社の入金から支払までの1か月半の利息は当時の金利6%としたら年率0.75%ですし、為替の1円のマージンは当時のドル円為替レート200円として0.5%に相当します。つまりは、たとえば、3%の口銭でも実質4.25%というわけです。金利感覚や為替感覚のある商社マンに対抗するためにはメーカーであっても金融リテラシーが重要だとの洗礼を受けたわけです。

トレジャリーには現場の日々のキャッシュのやり取りをイメージします。ファイナンスにはもっと幅広い概念として、特に財務報告を中心とした概念のイメージです。

日本企業の財務ではトレジャリーの重要性をあまり認識してないように思います。それが私にとっては気になるところです。

電機メーカーや自動車メーカーの海外進出が盛んな時代に財務部門の活躍が見られましたためトレジャリーの専門家が随分育ちました。当時は海外事業に必要な資金をどのように効率的に調達するかがポイントでしたので金融子会社設立や証券発行等に偏っていたかもしれません。

長く続いている超金融緩和による低金利、ゼロ金利、さらにはマイナス金利までを経験して財務(トレジャリー)の価値を発揮するのが難しい時期を経験しましたが、いよいよ金利上昇とインフレを迎える状況となりました。筆者がキャッシュマネジメントに取り組んだのも1980年に米国勤務となり、短期プライムレートが20%超の環境で多数の拠点で個別に資金管理を行っていたのを一気に集中管理に転換したことで必要資金を5百万ドル圧縮することが出来たのがきっかけです。資金集中により百万ドルの利払いの節約が出来て財務(トレジャリー)の価値の証明したのが最初でした。思い切った変革を行うのは平時では難しく今後予想される金融市場の混乱があれば、これまで考えていた様々なDX(デジタルトランスフォーメーション)を実行に移す絶好の機会と考えてよいと思います。

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