著者:大田 研一(アドバイザリー)
資金の見える化が必要と考えてTMS(Treasury Management System)の導入を決定したとしても、口座情報を取得するためには銀行接続という手間のかかる交渉を少ない、経験不足のスタッフで行うのは大変です。そのため、銀行情報接続の面倒な交渉をサポートしますとサービスを立ち上げたのですが、しかし、資金の見える化の効果を得るためにはその前に必ず検討すべきことがあります。
それは、現在子会社が保有する銀行口座が本当に必要なのか(あるいは子会社に説明させる)ということです。また、口座の入出金データを入手して“何をしたいのか”について考える必要があります。
その理由は
- TMSの導入にも、また口座情報の取得にも手数料がかかります。そのため、不必要な口座を閉じるべきです。同時に不正リスクの発生する可能性を抑えるためにも、まずは保有口座の見える化と求められる機能を明確にしないといけないということです。最小の口座数で最大の効果を得ることが必要です。
- 銀行取引は本来本社財務部によって監視され簡単にはできない重要な意思決定だということが理解されなくてはいけません。TMSやCMS(Cash Management System)のモジュールの中にBank Relationship Managementのモジュールが入っているのはそれを管理するためのものです。
- 筆者が考える最もシンプルでベストの口座構成は、マスター口座を見れば資金繰りの状況が一目で分かるものでなければいけません。
これは米国金融子会社のシステムを構築した時の考え方に似ていますが、マスター口座への、入出金は機能別に口座を開設してゼロバランス口座あるいは定額バランス口座にして紐づけることです。また資金移動を自動化することで無駄な時間を省き不正が発生する余地をなくすことが可能ですし、すべての資金移動は収支項目に対応させます。
例えばA口座からマスター口座へ資金移動は売掛金の入金、B口座への出金は経費の支払という具合です。こうした口座構成を完成させれば、マスター口座を見るだけで子会社の資金繰りを日々モニターできるわけです。保有口座を統合させなければ全体を把握することは極めて困難です。
会計のデータは必ずしも真実を伝えませんが、キャッシュの情報は嘘をつかないリアルタイムの情報です。事業環境が厳しいときには、子会社の日々の資金繰りを見ることで的確な対策をタイムリーに打つことが出来ます。
多額の資金を投入して買収した会社のパフォーマンスをモニターする場合には、日々の資金繰り情報を蓄積して当日までの進捗状況を資金繰り予想と比較することで現状が正しいか否かを把握することが可能です。国や業界により月末払いなど支払慣習などが異なることから状況の良し悪しは一概に言えないもののある程度の判断は可能ではないかと思います。