財務プロフエッショナルの世界比較

銀行接続コラム

著者:大田 研一(アドバイザリー)

筆者は日本の財務プロフエッショナルは絶滅危惧種という表現で危機感を発しています。その背景として、日本での財務の中でも実際の資金の動きをコントロールするトレジャリー(Treasury)の人材が減少していることを感じています。

筆者が国際財務の実務を担当していた80年代から90年代にかけては電機・自動車業界を中心に日本企業の海外進出が盛んになった時代で、資金調達あるいは効率的な資金管理の重要性が認識され様々の試みがなされた時代でした。当時は日本の世界市場における存在感は大きく、東京および私が駐在していたニューヨークでも財務プロフエッショナルとしての活躍の機会があふれていました。つまりは良いアドバイスやサービスに対して聞く耳を持つ事業法人の財務プロフエッショナルがいることで、積極的に日本企業へ財務アドバイスする市場(マーケット)が存在していたということです。

2020年代の今は当時のような規制の厳しい時代とは異なり、なんでもできる時代になっているはずですが、逆にトレジャリーを理解している事業法人のトレジャリー人材はどんどん減少しているように思われます。資金調達に苦労をしない超金融緩和の下での低金利になれて「資金管理の重要性」が薄れているからだと思います。

米国の財務プロフエッショナル協会(Association for Financial Professionals:AFP)はコロナ禍の前には毎年6000人以上の財務プロフエッショナルを集めるコンベンションを開催して、事業法人、銀行、システムベンダー、コンサルタント等が集まり、セミナーや他社の成功事例に加えてスポンサー企業の新しいサービスや製品について数日間で知ることが出来ます。

英国の財務プロフエッショナル協会(Association of Corporate Treasurers:ACT)も同様に3000人規模のコンベンションを開催しています。さて、日本では筆者が20年間にわたり関与している日本CFO協会は法人会員213社、個人会員1,956名(2021年3月時点)の会員を抱えているものの、その会員のキャリアは経理・会計を主たる領域としている方が多い状況です。日本CFO協会は米国のAFPモデルを日本に導入してキャッシュマネジメントの資格試験をスタートして、トレジャリー・マネジメントの要のキャッシュマネジメントへの理解を浸透しました。しかし、AFPがキャッシュマネジメントの資格から幅広い知識を要求されるトレジャリー・マネジメントの資格試験にレベルアップした時に日本では合格者が大幅減少する事態となり資格試験の継続を打ち切らざるを得ませんでした。

簡単に言えば、現在の日本ではトレジャリーはビジネス、つまりはお金にならないということです。そのため日本企業の優秀なトレジャリープロフエッショナルが定年年齢になり、銀行ではグローバルな実務経験を持つトランサクションバンキングの銀行員も少なくなり、いくつかのシステムベンダーやコンサルタントも撤退して、残念ながら財務の分野では属人的な経験やスキルの継承がなされず、新たな情報の提供先も失われ財務スタッフの成長機会が失われる状況となりました。しかし、一筋の光明は2013年ごろからのクラウドベースのTMS(Treasury Management System)の登場です。財務マネジメントには、それまでのERPをはじめとして高額の投資になる財務(トレジャリー)システムでは手が出なかったものが、クラウドコンピューティングにより必要なサービスを必要なだけの利用による課金により気軽に扱えることになったことで、筆者は財務システム導入の障害がなくなると仮説を設定しましたが見事に予測が外れてしまったわけです。

そこで、なぜ導入が進まないのかと考えると財務(トレジャリー)プロフェッショナルの育成が一部の企業を除いては十分とは言えないという結論に至ったわけです。90年代には新しい財務プロジェクトへ取り組んでいた財務スタッフも、経験不足と少ない人員で新たなプロジェクトの初めの一歩の銀行情報接続に取り組む余裕はない状況と認識したわけです。

各社で育成していないなら外部にアウトソースすることも可能かと思いますが、どこもそうした経験を持った人材が育っていない状況なら、適正価格で委託できる先は見つからないわけです。それなら数少ない経験ある人材を集めて対応する新規ビジネスを立ち上げて将来の高度な分析業務への礎を築いてもらおうとして齋藤氏、吉田氏、そして私の3人が文殊の知恵になれることを目指して立ち上げたわけです。

タイトルとURLをコピーしました