カスタマイズは善?悪?

銀行接続コラム

著者:齋藤 隆之(チーフコンサルタント)

 銀行員時代、お客様から既存のサービスの一部(ときにはかなりの部分)を自社向けに変更してほしいという、いわゆる「カスタマイズ」の要望を受けたことがございました。お客様のRM(Relationship Manager)や商品セールス担当は「お客様だけの特別なサービスですよ」などと煽り、お客様に特別感を抱いていただけたことに満足する姿を見たものでした。しかし本当にそうなのでしょうか?銀行では、国内・海外問わず、一つの商品をリリースするためには、市場ニーズの調査、提供しようとするサービスが法令的に問題ないか、システム構成上の問題はないか、オペレーションのリスクは極小化できているか、等々の多数の観点(30項目くらい)からレビューを受け、グローバルバンクではアジア地域の合同会議で審判を得て、はじめてリリースされるものです。これは、銀行だけでなく、家電も車も世の中の商品は全て同様のレビューを受けて、世に出ているものと思います。それを現行のワークフローがそうなっているからという理由で(それだけではありませんが、これが最も多かった印象があります)、多面的なレビューを受けたサービスを、改変してしまうと、そこだけ通常とは違うオペレーションになり、あるいはそこだけシステムのメンテナンス作業が増え、結局、悪い意味での特別なサービスになってしまうのです。

 メガバンク時代に、欧州全般の業務効率化を図るためにSAPを導入されるという大企業様のお手伝いをさせていただきました。有名IT企業のSEさんがプロジェクトリーダーとなり、銀行CMSとの連携を準備していきましたが、かなり手を入れてしまったために、後年、銀行側の口座番号体系を変更する際に、当時の担当者もいなく、複雑なシステム構成が解明できないためにお客様側での作業ができなくなり、結局、銀行側で二重開発をせざるを得なくなったこともありました。また、カスタマイズを希望する大企業様を担当する銀行RMに「あなたの大事なお客様に、通常よりリスクの高いサービスをご提供し続けるのですか?」と聞いたことがあります。何人かは、理解していただけたようで、「お客様の現行のワークフローの見直しも含めて、サービス提供後の流れを見直しましょう」と説明してくれたこともありました。残念ながら、まだ多くのRMは、その場(お客様からマンデートを獲得するとき)のお客様の満足だけを見ているので、サービス導入後にリスクの高いサービスになってしまうことを理解できないでいます。お客様は導入したサービスを、これから長い間使い続けるという視点を持ってもらいたいものです。

 同じくメガバンク時代に、それまで難攻不落であった大企業様に初めて決済ツールの導入が叶ったのですが、そのときのベテラン提案者に聞いたら「導入になったのは、ベーシックなインターネットバンキング。何もカスタマイズなんてしていない。このサービスをお客様の現在の口座分布に合わせて、どう繋いで、どう管理したらベストかをご説明しただけ。」という答えが返ってきました。このケースは、お客様のそれぞれの現状の口座の使い方に鑑みて、必要な口座を選別して新たな金流をご提案したところがポイントで、お客様もベテラン提案者も、サービスの本質がわかっていたということを改めて実感いたしました。

 システムというツールは便利でありますが、定期的なメンテナンスが必要ですし、後年、ルールの変更や環境変化に基づくワークフローの見直しが想定されますので、できるだけカスタマイズせず、標準的なものを選ぶことが、業務継続性においても重要ということを、長年の業務を通じてしみじみ感じております。

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