タイムリミットが迫る銀行接続対応の必要性 2

迷宮に入り込む財務コラム

著者:吉田 英樹(アドバイザリー)

 経済産業省のデジタルトランスフォーメーションに向けた研究会の発表によると2024年の固定電話網PSTN(公衆交換電話網)終了による影響が示されています。

 2010年11月にNTT持株主導のもとNTT地域会社が「PSTNのマイグレーションについて ~概括的展望~」を公表しました。主たる内容は「IP(Internet Protocol)系サービスへの需要のシフトおよびPSTN交換機の寿命等を勘案し、2020年 頃から、PSTNからIP網への移行を開始し、2025年頃に完了を想定」というもので、PSTNからIP網への移行にあたり、一部提供を終了するサービスがある、と記されています。この発表はISDNサービス終了と表記されることが多く、そのためISDN回線が廃止になる、メタル回線が無くなる、と誤解されがちですが、実態としては2024年1月から”固定電話発のIP網切替”が開始することによりISDN回線を使ったINSネット「ディジタル通信モード」が使用できなくなるものです。また、サービスが存続される加入電話(メタル回線)やISDN回線のINSネット「通話モード」を使ってモデム通信を行ったとしても、相当な通信品質の低下(EDI: Electronic Data Interchangeにおいて現行比約4倍の通信時間がかかるなど)があるため、とても使用に耐えられる状況ではありません。

 もしINSネット「通話モード」を終了し、ISDN回線の廃止、ひいてはメタル回線の廃止まで行った場合、一般家庭の電話機を買い替える必要が生じるなど国民レベルの影響が出てしまいます。NTTの本音としてはこのタイミングでメタル回線を全面廃止したいところですが、社会インフラとしての役割を優先させ二重運用を選択したということでしょう。しかしながら影響が限定的であることから、このIP網切替の影響が世の中になかなか浸透しない結果を生じております。INSネット「ディジタル通信モード」が終了するということは、現在ご利用になっている金融機関のEB(Electronic Banking)やFB(Firm Banking)が使えなくなるということです。つまり、2024年1月までに銀行接続の方法を変えないと口座残高の把握はもちろん、送金業務ができなくなってしまいます!えらいこっちゃなんです!

 銀行接続の方法を変えるにも、まずは実態調査から始まり、どういった仕組みを使うか情報収集をして、選定し、導入をするプロセスには相応の時間がかかります。接続する銀行に対してもどの口座にEBやFBのサービスをつけているかの現状把握から、どのようなサービスに変更するかを確認し、予め手続きをしなくてはいけません。そもそも通信事業者もシステムベンダーも銀行も殺到する切替依頼に対応することはできません。加えて2025年はERPでマーケットリーダーであるドイツSAP社のR/3やERP6.0(ECC6.0)といった過去のバージョンのサポートが終了しますから、ITリソースはすでに取り合っています。さらに企業の財務部門にとって悪いことには、現行の財務インフラを構築した当事者が異動やリタイアメントによって社内にいないという問題があります。特に銀行接続の領域となると、誰がどの銀行とどんな業務要件や仕様で契約をしたか把握することすら困難になります。これはほぼすべての企業にあてはまるお話しです。特にINSネット「ディジタル通信モード」を現在使っていると認識をされていない企業も多いので、現状の回線を確認されていない方は、なるべく早く確認されることを強くお勧めします。銀行接続を切り替えるために残されている時間はもう僅かです!

 目の前に迫る2025年の崖より前に必要なインフラの影響に対して、他人ごとでは無く一度自己診断をし、影響把握をし、対策が必要な場合はすぐに行動をして下さい、と強く申し上げます。

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