これからの財務の役割 3: 税務リスクへの備え

Bank2コラム

著者:大田 研一(アドバイザリー)

過小資本リスク

 日本企業が事業をグローバルに展開していくにつれて、税務上のリスクに注意を払う必要が出てきます。財務に関連した税務リスクとしては過少資本の問題について筆者の経験をご紹介します。

 筆者が米国に1980年に駐在員として赴任して財務業務を担当することになって時には、高金利に対してCMS(キャッシュ・マネジメント・システム)を導入して資金効率を図ったことは既にご案内の通りです。20%の超高金利ともなれば利息を生まない無駄な資金を抱えることが最大の機会損失となるわけで全社を説得するのも難しくありませんでした。しかし、一つの会社で無駄をなくしたと思っていても、米国子会社4社で見たら他の3社では無駄がいまだに発生しているので、財務業務を米国全体で金融子会社に統合するのは合理的と考えたわけです。この場合に資金調達のために個別の金融子会社に統合することは、名目的な資本金に対して多額の債務を抱えることになるのですから、明らかに過少資本の状況になるわけです。この過少資本リスクに対しては本社からの信用サポートとして税法上の『保証』を一切避け『念書』に頼るという方針を徹底しました。懸念はしていましたが、忘れたころに予想通り税務当局の調査を受けることになりました。しかし、さすがに保証でない念書を保証と断定する根拠はなく押し返すことができましたが、反論のために雇った弁護士費用や日本語の内部規定や関連するドキュメンツを英語に翻訳する作業など会社としても大きな負担を追うことになったのも事実ですので、やはり持株会社でスタートできればという思いを持ったのを記憶しています。(ちなみに、米国事業はその後持株会社による体制に移行しています)

 後日談として、米国の税務当局が税法を改正してアーニング・ストリッピングという税法を導入して、その中で『保証類似行為』という概念を取り入れていますが、ここで保証は紙の上の保証に限定せず、念書や口頭での保証行為をも含むとしたのは税務調査での議論を経ての学習から出てきたものだと思います。

 日本企業が海外子会社を設立する場合に、日本とは異なるリスクを念頭に置いておく必要がありますが、十分な資本金を子会社に出資できないケースでの資金調達では本社からの直接融資や本社からのサポートが必要になります。その際には、日本側では税務当局から第三者取引原則での金利設定なのか、また子会社から保証料を徴収しているのかを見られ、一方で海外子会社側では本社からの直接融資は資本金の性格として見なされて利息を損金算入できない可能性もあるということを考えなくてはいけません。ユーザンス期間を長く設定して資金調達に充てる場合も3か月を超える場合には本社からの借入と見なすとアーニング・ストリッピングでは定義していました。税務当局の過去の動きを考えると、景気減速により税収が減少すると新しい財源として海外企業への課税に取り組むことが常です。これまでは先進国での問題であったものが、今後は新興国にも広がる可能性があります。

 財務の問題とか税務部門の責任とか縄張りの線引きではなく、海外での事業リスクや財務リスクを包括的に取り組む組織体制が必要なのかもしれません。財務プロフェッショナルとしては税務リスクの感度を磨くことにも努める必要があることにも留意してください。

タイトルとURLをコピーしました