これからの財務の役割 1: M&Aで買収した子会社のモニタリング

Bank2コラム

著者:大田 研一(アドバイザリー)

 筆者が90年代に様々な財務の手法を取り入れていた時代とは異なり、多様な役割が現在のトレジャリープロフェッショナルには要求されていると感じています。自分自身が今の時代にトレジャリープロフェッショナルとして会社に貢献するとしたらどんな役割が求められるかと想像して、重要だと感じた役割を3回に分けて述べてみたいと思います。

M&Aの時代における財務(トレジャリー)の役割

 先ずは、日本企業の事業戦略の中でM&Aがこれほど活用される時代が来るというのは90年代には想像できなかったことです。当然のことですが、財務の役割も新しい環境の中で変わらざるを得ません。海外子会社の管理という点では、資金繰りを中心に借入枠の管理を行うことが財務部の子会社管理の中でも重要な役割でしたが、何千億円という多額の資金を投資して取得する買収先をPMI(買収後の経営統合)の中で、どのように財務ガバナンスを利かすのかは財務の重要な役割になったと思います。

海外子会社管理の自動化こそが財務のDX

 そもそもTMSの初めの一歩である「資金の見える化」は、その重要性の高い海外子会社を対象とすべきであり、特に重要な海外子会社管理をきめ細かく行うためのものと考えます。その点でいえば新たに買収する会社については最優先の対象会社ではないでしょうか。筆者であれば、現預金をどれだけ保有しているかを知るだけで満足せず、重点管理を資金繰りにおき、子会社の入出金情報を自動的に取得して、資金繰り表に反映させ、資金繰り予想をもとに月中の進捗状況で異常値がないかをモニタリングすると思います。ここでのポイントは「異常値をどのように判断するか」ということで、何が異常なのかのロジックを作り修正を重ねていくことです。試行錯誤を経験して自社の製品や、業界や顧客の特性に合わせての問題の予兆や前兆を示す指標を探ることが腕の見せ所になります。トレジャリーの職人的なモニタリングを、システムに反映させることが今後取り組むべき重要な役割です。データの蓄積が進めば、会社の入出金パターンの分析やERPの顧客データで入金予測することも、RPAやAIなどを活用してモニタリングを自動化する余地が十分あると思います。

 入出金情報から自動的に資金繰り表作成を可能にするためには、先ずは海外子会社の銀行口座を再構成することが最初にやるべきことです。繰り返しになりますが、以前に提案した集中口座と機能口座の考え方です。

銀行取引管理こそ不正リスク防止の第一歩

 また、日本企業の海外子会社の管理について懸念していることがあります。現在ほとんどの日本企業では口座の開設については子会社の裁量に任されています。本来、口座開設の管理がしっかりしていないと不正はコントロールできません。資金の移動を伴うケースが多いことから、新たに銀行口座の開設をする場合には、取締役会決議事項として必ず本社の取締役がチェックすべきことです。CMSにもTMSにも、Bank Relationship Managementという銀行取引管理のモジュールがあるのは、どの銀行と、どのような口座を持ち、誰がどのような権限を持っているのかを厳しく管理しているからです。また、世界ベースでの銀行取引の状況も俯瞰できるデータとしても活用できます。

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