銀行接続の難しさとは?

銀行接続コラム

著者:齋藤 隆之(チーフコンサルタント)

 メガバンク時代に、自行の海外拠点のない地域でのサービス強化を図ろうという狙いで、東欧・北欧の親密行(金融法人同士として取引があったというだけだと思います)とアライアンスを組もうという話が持ち上がりました。私は、キャッシュマネジメントサービスの担当として、親密行の銀行口座情報を自行のグローバルキャッシュマネジメントシステム(GCMS)に取り込んで、①自行口座と同様に口座情報照会画面で、親密行の残高と明細を表示すること、②お客様が親密行にお持ちの口座に対する送金指図を、自行のGCMSに入力いただき、それを親密行に発信するということの2点を、親密行20数行に対して行いました。

 銀行接続の実務についてご理解いただくには、私が過去に直面したケースが参考になると思いますので、ここでご案内差し上げます。

銀行間の情報のやり取りは、SWIFTという全世界共通のフォーマットを用いますが、それでも簡単には接続できません。

口座情報発信頻度はデイリーと思い込んでいましたが、ウィークリーの銀行もありました。そのため、情報の連続性がうまく取れていないこともありました(その後、メッセージに連続性を保証するシーケンスナンバーという項目が追加されました)。また、取引の種類を表すトランザクションコードという項目がありますが、SWIFTの推奨するコードはあるものの、自行内での処理効率化のために独自のコードを用いている銀行も少なくありませんでした。さらに、これがお客様にとって最も重要なのですが、その入金または出金が何の取引なのかを示す取引明細については、文字数だけが決められているので、その表記方法は銀行によってさまざまで、何も表記されていない銀行もありました。私が担当していた当時では、中国の一部の銀行が漢字一文字をPIN-INと呼ばれる4桁の数字で表現し、4桁の数字が連続で入っているということもありました。お客さまから見たら、そんなルール統一すればいいじゃないかと思われるでしょう。私も当時、何とか共通のルール、少なくともキーとなるいくつかのコードワードにできないかと奔走してみましたが、前回のコラムで触れましたように、銀行にとって優先すべきは、お客様に自行口座を活用いただくことにあります。世界の他の銀行と表記を合わせるより、自行口座を使っていただけるお客様の取引を正確・円滑に処理する方に重きを置いてしまいます。

また、送金指図の発信については、さらに厄介で、送金指図の処理を行うには、送金指図発信銀行と受信して処理する銀行の間で、事務処理に関する相互契約が必要となります。この契約で行われる事務に関しては、基本無償ですが、受信銀行にとっては事務処理をする責任を負わされ、送金によって預金が流出します。正直に言うと、やりたくない事務処理です。そのために、通常より前倒しのカットオフタイム、自行での送金処理に必要となる情報や独特の取引コードの入力等を求めてきます。個別の銀行向けのコード設定など、腰の重い金融機関のシステムでは対応は容易ではないのです。もうお分かりの通り、かなりハードルの高い話なのです。私の経験でも、実際にこうしたアライアンスが実現して可能となったのは、双方の銀行にとって、取引量が多く、銀行にとって収益性の高いごく一部のお客様に限られました。

 銀行接続を行う際に、少なくともこのような経験を持ち、相手銀行と交渉していくことができれば、先方の要求内容でスタンスが理解できますので、落としどころを見つけるのも早めに行えると思います。その結果として、お客様のグローバル財務管理基盤構築に関わる労力を削減できるのではないでしょうか?お客様にとっては、グローバル財務管理基盤の構築は単なる通過点で、それを活用した実際の資金管理業務の遂行によって、無駄なコストの削減やリスクの回避、より収益性の高いエリアへの資金投入を実現することこそが、Treasurerとしての成果なのですから。

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